2016年07月
ほぼひと月ぶりに休みをとって今日、大木の緑が吐き出す酸素が濃く感じられた砧公園の中の世田谷美術館で。
マヌエル・アルバレス・ブラボ(1902年~2002年)はメキシコの世界的な写真家。初めてその作品をみた。目に映るもの次から次へとシャッターを押して楽しんでいると思わせるものが多く、ついこちらも頬が緩んだ。笑顔になれる展覧会は久しぶりかも。メキシコシティの街中で被写体になった人々はみんな素知らぬ顔をしている。カメラを向けられてもお構いなしという感じがとてもいい。それだけブラボおじさんが風景の一部に溶け込んでいたのだろう。トラがグルグル回って溶けてバターになっちゃう話があるように、写真家も溶けて風景になるくらい毎日毎日街を歩き回っていたんだきっと。どこかユーモアを湛えながらも土地柄か生命の誕生と死の陰影も濃い。オロスコ、リベラ、シケイロス、そしてフリーダにトロツキイやブルトン。交友範囲も広かったらしく彼らのポートレイトや日常の姿にも心惹かれた。メキシコで開かれた若きブラボ初の個展パンフにビジャウルテイアという詩人が寄せた言葉が印象的だった。「頭の中の手で仕事する思想家と違って、彼は手の中にある頭で仕事をする」。確かこんなことが書かれてあった。ブラボの人となりとその仕事を言い表しているのだと思った。おそらく美術館は、会えなかった何者かとの対話を楽しむ場所でもあるのだ。そう考えさせられる展覧会だった。
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